オタがた 〜オタクのひとりがたり〜

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誰もが心にうさぎ山商店街 〜『たまこまーけっと』についてのあれこれ〜

みなさんこんばんは。 私はたまこまーけっとという作品が人生で一番好きなのですが、今まで好きな理由を文章にしたことがなかったことに気付きまして。 たまこに対する愛を、解釈とともに語らせていただこうと思います。
演出効果や文学的背景などは全くわからないので、完全なる思い込みで文章を書きます。また、 ネタバレをたくさん含んでいますが、作品の本質はここで書き表すこと以外にあると思いますので、未視聴の方も安心して読んで下さい。どうしても嫌な方だけご注意ください。

そもそもどういう作品か

皆さんご存知かもしれませんが、この作品の基本情報・あらすじを記します。

基本情報

けいおん! 』で一世を風靡した京都アニメーション所属の監督・山田尚子が約二年ぶりに監督を務めたのが、2013年1月にTV放送されたアニメ『たまこまーけっと』。『けいおん! 』と同じ製作陣ということで、当時話題になりました。
主役の北白川たまこを演じるのは、声優の洲崎綾さん。今となっては人気絶頂の洲崎さんですが、実はこの作品がテレビアニメの初主演。ご本人も、『たまこまーけっと』がなかったら今の自分はいないとよく語っています。

あらすじ(『たまこまーけっと』)

主役の女の子・北白川たまこは、餅屋「たまや」の娘。頭の中がおもちのことでいっぱいなこと以外、どこにでもいる高校生。たまやがあるうさぎ山商店街の人々に囲まれて、幸せな日々を過ごしていた。
ある日、喋る不思議な鳥、デラ・モチマッヅィがひょんなことからうさぎ山商店街に迷い込む。実はデラは、とある王国の王子に仕えており、次期のお妃候補を探していて……?

なにがいいのか

たまこまーけっと』には山場と呼ばれる場面が存在しません。大きな事件やドラマがあるわけではなく、12話丸々、たまことデラ、そしてうさぎ山商店街の面々の日常が描かれています。ここが、『たまこまーけっと』の評価が二分されている理由でしょう。しかし、けっして退屈な作品というわけではないのです。日常に散りばめられたキャラクターの魅力、演出、心の機微。私はそこが好きでたまりません。
そして何より私が好きなのは、何があっても変わらないうさぎ山商店街です。

うさぎ山商店街の魔力

非日常的な出来事を通じて日常のかけがえのなさに気付く、というのが、いわゆる日常アニメでよく用いられる手法です。しかし『たまこまーけっと』では、一切そういう話が出てきません。というより、非日常的な出来事が起こっても、ほとんど動じずに変わりのない日常を過ごします。喋る鳥や異国の王子の到来という事件が起きた時も、少し賑やかになる程度でうさぎ山商店街はいつものうさぎ山商店街でした。ここに、うさぎ山商店街が持つ魔力というものを感じずにはいられません。うさぎ山商店街は非常に閉じられた世界で、「内側」に入ってきたものは全てうさぎ山の一部にしてしまう。
たまこは、生まれてからずっとうさぎ山商店街で過ごしてきたため、うさぎ山商店街が世界の全てでした。しかし、世界の「外側」から来たデラによって彼女の日常が一変……すると思いきや、彼女は変わらず彼女のまま。彼女がクレイジーなほどに動揺しない性格なのは、彼女がうさぎ山商店街そのものを体現しているからでしょう。

 

しかし、そんなたまこが変化してしまう出来事が。それは、母の死ともち蔵からの告白です。この二つの事件は、作品の根幹をなす部分なのでじっくりと説明していきます。

母親の死

実はたまこの母親・ひなこは、たまこが小さい時に亡くなっています。誰にとってもそうであるように、母親の死は、たまこにとても大きな衝撃を与えました。葬式の日を思い出し、シャッターの下りたうさぎ山商店街に不安感を覚えてしまうほどの。亡くなったときの様子は具体的にはほとんど描写されていませんが、ひなこの死が与えた影響は劇中に散りばめられています。今まで「内側」にいた母親が「外側」(=死の世界)に行ってしまう。そこにトラウマを覚え、より「内側」を大事にするようになったのだと思います。

もち蔵からの告白

もち蔵というのは、彼女の幼馴染であり、たまやの向かいにあるお餅屋の一人息子です。彼は、ずっと前からたまこに好意を寄せていましたが、なかなかその思いを告げられずにいました。TV放送では結局告白できずに終わるのですが、続編映画の『たまこラブストーリー』ではついに告白。この出来事は、二人にとって映画の主題になるほどの大事件でした。
というのも、たまこにとって恋愛とは、今まで経験したことのない一大事件。それも、相手が今まで日常の一部であったもち蔵。心が大きく揺れ動きます。
この作品では「宇宙の入り口」というワードがよく用いられます。宇宙とは、未知の世界そのもの。『たまこラブストーリー』で高校3年生になったたまこたちは、ちょうどこれからの進路を決める年齢ということで、「宇宙の入り口に立った」状態です。
今まで「内側」のことしか視野に入れていなかったたまこは、「宇宙の入り口」=「外側」の入り口に急に立たされ、強い不安感を覚えてしまいます。『たまこラブストーリー』という作品は、そんなたまこたちが少しずつ宇宙の中へと足を伸ばしてゆく物語です。

誰もが心にうさぎ山商店街

母親の死、そしてもち蔵からの告白。これらの出来事は全て、「外側」から持ち込まれたものではなく、「内側」から生じたもの。「内側」から「外側」へと飛び出していくもの。ここで光るのが、「内側」=うさぎ山商店街の不変性です。
たまこが落ち込んだ時に励ましてくれたのは、いつまでも変わらないうさぎ山商店街と、商店街を形成する人々でした。
自分は年を重ねても、いつまで経っても変わらない。どこにでもある、しかし自分にとっては唯一の居場所。きっと、誰でも、うさぎ山商店街のような心の拠り所を持っているはずです。『たまこまーけっと』の素晴らしさは、そんな変わらない、オンリーワンな日常のありがたみを我々に教えてくれることだと、私は強く主張します。

終わりに

ダラダラと語ってしまいましたが、今回は主人公のたまこの目線から、この作品について考察してきました。他にも、彼女の友達である常盤みどり牧野かんな朝霧史織など深みを持つキャラクターばかりなので、彼女たちについてはまた別の機会に触れたいと思います。この記事を読んで興味を持った方は、一刻も早く『たまこまーけっと』『たまこラブストーリー』を視聴してください。よろしくお願いします。